茶室という空間美
お茶室に入ると何故か心がすーっと楽になり落ち着いた気持ちになれるのはみなさんにも経験があるのではないでしょうか。
私は煎茶道のお稽古を始めて約一年になります。
それまで習い事を熱心にしたことはなく、『お稽古』と聞くと今でも少し堅苦しく感じてしまいますが、実際にお稽古に行ってみると気持ちが切り替わっていくのを度々感じます。
せわしない日常から少し離れて、お茶の時間を過ごすことは私たちの心を豊かに、穏やかにしてくれます。
そんな時間を過ごせる理由の一つは、茶室という空間にあるのではないでしょうか。
茶室とは、茶を淹れ、客を一期一会でもてなすための空間です。
茶室研究の第一人者中村昌生氏によれば、「茶の湯の機能を持ちあわせていればそれだけで茶室であるとはいえない。茶の湯に使えるという機能を充たしていることに加え、茶の湯の雰囲気を感じさせる空間でなければならない」とあります。(『図説 茶室の歴史』淡交社、1998年)。
茶の湯は日本の自然を感じ取る感性によって育まれたものであり、それを反映するのが茶室という空間なのです。
茶室の中では静寂の中に心地の良い自然の音、澄んだ空気、季節をダイレクトに感じられる造りになっています。
そのような空間で過ごすと、何故か今ここにいる自分という存在を見つめ直して気持ちが落ち着くように思います。
一方、煎茶道には形式的な茶室がありません。
茶をのむ場所や形よりも、誰とどのように愉しむか、いわゆる茶に集う人々の心持ちが大切だということを江戸時代の売茶翁も説いています。
最近は、断捨離、ミニマリストなどシンプルでスタイリッシュなものが好まれる時代です。
そんな中でも風の音や鳥のさえずり、やわらかい日差しや月明りなど自然の美にも思いを馳せ、日常の中でも情緒を感じてみるのも良いのではないでしょうか。
形式的な空間だけではなくとも心持ち次第で空間美を楽しむことができれば、シンプルながらも味わい深い生活のヒントになるかもしれません。