茶の道とおもてなし文化
「Sushi」「Tempura」と同様に世界共通語の仲間入りを果たした「おもてなし」。
英語で「Hospitality」と訳されることもしばしばですが、おもてなし本来の意味には単に礼儀正しく親切に人をもてなすというだけではなく、相手には見えない部分にまで配慮を施すと言った広い心遣いまでが込められています。おもてなしの心は、日本で古くから伝わる「茶道」の作法と精神がその源流と言われています。
日本でお茶が飲まれるようになった奈良・平安時代、遣唐使として唐に派遣された僧侶たちが茶礼で使用していた茶を眠気醒ましの良薬として持ち帰ったと言われています。
一部の人だけが口にできるハクライ品として扱われていましたが、次第に武士同士で集まり力を示す場で、「嗜好品」や「遊び」の一つとして広まりました。
しかしながら、安土桃山時代に入るとそれまでの楽しみや遊びといった要素は薄れ、お茶の作法に禅宗の礼法を統合した「侘び茶」の精神に重きが置かれるようになり、やがてお茶の扱われ方が一変していきます。
茶道の始祖として名高い千利休は、弟子たちに茶道の基本的な作法や精神として、おもてなしの心得とも言える、茶道における7つの教えを説いたと言われています。
茶道のおもてなしの精神「利休七則」
一則 茶は服のよきように点て(茶は相手の状況や気持ちを考えて点てよ)
二則 炭は湯の沸くように置き(準備は的確に誠実に行うこと)
三則 夏は涼しく冬暖かに(もてなしは相手が心地よく感じられるようにする)
四則 花は野にあるように活け(ものの表現は本質を知って簡潔に)
五則 刻限は早めに(何事も心にゆとりをもって行うこと)
六則 降らずとも雨の用意(相手のために万全の備えをせよ)
七則 相客に心せよ(何事をするにも相手のことを考えて)
これらを要約すると、「相手の状況や気持ちを思い量りながら湯を沸かし、お互いが最も心地よいと感じられるよう配慮せよ」「常に心にゆとりを持ち、相手のために万全を尽くせ」という内容となり、まさに「おもてなし」の真髄を表していると理解できます。
さらに、千利休は「茶室での身分は対等の立場」という貴賤平等の教えも説いており、大名も町人も百姓も同じ客人としてもてなすという日本のおもてなしの文化の根底を作り上げたとも言えるでしょう。
現代でも「おもてなし」の原点は茶道にありともいわれています。
煎茶道でもお客様をもてなす際にお客様のことを想いながら準備をします。
どのようなテーマで軸や盛り物、茶道具や茶菓を準備するか、当日に合わせた花の咲き加減にも心を配り、事細かにお客様を想いながら準備をします。
そのため、その日その時のお客様によってお茶室内の様子も変わってきます。まさしく一期一会の空間がここにあります。
茶会では、お客様に一煎のお茶を堪能していただけるよう、これだけの想いを込めるのです。
現代では急須で茶を淹れることが面倒くさいと言われますが、たくさんの心遣いや想いを受け取る心掛けが大切であり、それを知ると面倒が感動に変わるのです。
和やかな空間を演出し、相手を敬い清らかな心で誠心誠意のもてなしをする。
日本特有の文化のおもてなしの心を深く学べるのも煎茶道の魅力のひとつなのです。